「おうち時間」が2020年は完全にめちゃくちゃ増えて、することの中に読書や漫画を読む機会がメッチャクチャ増えました。
さらに言えばキンドルやオンライン、電子書籍を買う機会が増えたこともありまって「読みたい」と「購入する」の直接リンクっぷりも増えてきています。本屋さんで衝動的にあれもこれもこっちも買う!(表紙とあらすじで気になったら買うタイプです)という状態で二人三脚で色々買い増やしてきたんですけれども、その中で「うわ~~~好き~~」となった漫画がありました。
それが吉村旋氏が描く【性別「モナリザ」の君へ。】という漫画です。
もしあなたに性別がなかったら、あなたは誰を好きになりますか――…。
この世界で人間は12歳を迎える頃、自分がなりたい性へと次第に身体が変化していき、14歳になる頃には男性か女性へと姿を変えてゆく。
でも自分だけは性別がないまま、18度目の春を迎えた…。
いわゆる「性同一性障害」というものがないに等しい世界。
「自分が」なりたい性別になれる以外はほとんど現代社会と同じ世界感で、「どちら」を選ぶのかという物語です。
子供の頃は男女関係なくワイワイ遊んだりどちらかというと性別<個人で、だからこそ成長していくことで合わせて変化していく描写が非常に丁寧です。
作品の主人公は「男女」のどちらも選べないままにいる「ひなせ」という存在。
もともとひなせには二人の友人がいて、それぞれにしおり、りつという友人がいます。
「男性」「女性」という状態になる前からの友人である二人はそれぞれに男性、女性という性別を「選んで」成長しているなかで、ひなせはそのどちらでもない。
タイトルにある「モナリザ」というのはダヴィンチでおなじみのモナリザのことです。このモナリザに関しては「モナリザの微笑」で笑ってるんだか怒っているんだかがつかめない状態ということもしかりなのですが「男性なのか」「女性なのか」というのもちょっと分からないという「アンバランスさでバランスを取っている」絵でもあります。
ひなせは「性別」でいえば実にモナリザと一緒で、まさに「中性的」「ニュートラル」「ジェンダーレス」な立ち位置です。
ただひなせ自身はその「ジェンダーレス」で良いのかどうなのかはずっと考えていて、ひなせと近しい二人もひなせに対してそれぞれに懸想しています。
「自分はあなたのことが好きだから、だからこの性別を選んで欲しい」ということをそれぞれにそれぞれが口にしているのが第一話。
青少年の”自分はどうしたいのか”という葛藤
前述した通りしおりとりつは「自分がひなせのことが好きだから、自分に合わせて性別を選んで欲しい」というちょっと言い方悪いと自分勝手なのですが(笑)ただ一方でひなせはその性別を選ぶことで彼らとの関係が変わることに対して困惑をしています。
二人と話しているときのひなせはふたりの目線に近しくなるので描かれ方がそれぞれ「男性的」「女性的」な表情をしているのが面白いんですよね。どっちにも取れるしどっちにも見えるモナリザぽさ。
しおりとひなせだとやっぱりしおりのほうが背格好も大きくて、ひなせは細い
りつとひなせ。こちらでみるとひなせの手とかも「どちらでもない」のがわかりますね。
三人になったときに「もう幸せになってくれればなんでもいい」って気持ちになるのはしょうがない気もする。
また、この世界では「性別を選ばない人はどのぐらいいるのか」という疑問に対して(いわゆる「ジェンダーレス」という立ち位置なら?というやつですね)も描写があって、結果としてしおり(男の子を選んだほう)は非常にひなせに対して「早く選んでほしい」という気持ちを向けます。
性別を選ぶということ
その性別を選ぶと現代社会と同じように世界が動いていくと思うのですが、例えば【男の子が欲しかった】という親がその子の主張をさておいて「そう思い込ませる」ケースもきっとあるだろうな、とか周囲に押さえつけられるような形で「思っていた性別とは異なる」ものを選んでしまう人もきっといる世界なのだろうなぁと描かれない中での外側をちょっと想像しています。
周りは「男になれ」と言うけれど、自分の本心には嘘をつけなくて女を選んでしまった人は?とかそういうのの周囲の状況を思うとめっちゃくちゃしんどいですよね。
「のりで男性を選んだけれど、やっぱり女性がよかったかもしれない」というケースもあるし、「この性別を選んだけれど同性を好きになった」というケースもしかりでしょう。その描写も説明が後にあって私はそれがストン、と落ちました。
「異性同士の恋愛」だけが正義ではなく、「同性を選んだ結果の恋愛感情だってある」上で、「性別を選ぶことは恋愛をしたいから選ぶのではない」という描写が個人的にすっごい好きです。
性別を選ぶ12歳のときと、それから一生付き合っていく中で人はいろんな感情を渦巻かせていく。異性として相手にも選んで欲しい、でも同棲を選んだ場合自分のその気持ちは偽物なのか?とか「男だから/女だから」好きなのか?の疑問も出てきます。
ひなせは自分が性別を選ぶことに非常に慎重で、その結果の二人との関係が非常にこじれていくんですが、青臭く、それでいて爽やかさがあってモダモダするかんじが非常に私は好きです。どういう結論になっても彼らが彼らなりに選んでいった結論を描くものであってほしいなぁと願うばかり。
色使いがデジタルだからこその綺麗さ
この作品、電子書籍/デジタルになっているからこその色の串の仕方がすごく特徴的です。
白と黒という2つのコントラストの中に「ブルー」が際立っていて、そのブルーこそがひなせの存在を象徴するカラーとなっています。この色使いもすごくキレイだからせっかくだからモノクロだけではなく、この色だけは…是非…残しておいてほしいと思うばかりです。
現在5巻まで連載中なのですが、実写化やアニメになっても違和感があまりなくすっと入ってきそうな作品だな~と感じながら、今後の彼らが「どんな道」を選んでいくのか。実に楽しみです。
恋愛として「二人」のどちらを選ぶのか、性別として「男女」のどちらを選ぶのか。彼らの関係はどう変わっていくのか。
これからも楽しみなひとつです。