”転生もの”というのが昨今だいぶ認知されて参りましたね。
転生とは「現在の自分の人生が何かしらで終演を迎え、もう一つの自分の人生を歩み始める」という所謂トリップものの一つの形です。
自分の人生の記憶を持ったまま、異世界にいって「そこで生きている人間」になるというのは一種の”成り代わり”に近いものを感じます。
成り代わりといわれて早々に自分の頭をよぎるのは「ツナ成り代わり」「黒子成り代わり」など一時の某ジャンル界隈で一気に賑わいを見せていたジャンルなのですが…
その上で、Twitterの電子公告でお見かけしたこの「転生悪女の黒歴史」に興味を持ち、本屋で購入したのでその感想をつらつら連ねていきたいと思います。
「自分で作った黒歴史が可視化」する世界
本作は所謂中二病まっしぐらだった黒歴史のノートを主人公が事故死する直前に親との電話で発見→その世界にトリップするという、設定を考えるのが好きな創作側の人間として「あったらいいな」と学生時代の中二病のものとか「絶対勘弁して欲しい」の二律背反によって成立するものだと思います。
ヒロインはすでにおり、そのヒロイン(コノハ)(今作の主人公の本名にあたる)の妹である悪女・イアナになっているわけです。
悪役令嬢になるスタンスのものは色々ありますが(乙女ゲー原作だと「マイネリーベに出てくる悪役みたいなキャラだ!!」とか思ったものもある。)(そして私が通ってきた乙女ゲー界隈では女キャラクターが個性的だったパターンが多いのであまり突出して悪びれる女キャラが少なかったのが特徴)、「自分が作った悪役を自分がやる」っていうのはなんともいえぬ…こう…メンタル削れる感が半端ないです。
所謂”原作あり”の作品トリップとして
原作がすでにあるものの「成り代わり」なのか(最初から別の存在がいて、そことリンクしてしまうタイプ)
原作がすでにあるものに新しく「誰か」を入れるタイプなのか(本の中に入ってしまうタイプとかその例)
っていうのでも同じ「作品があるトリップ」でも異なっていて、この場合は前者に該当するわけです。
自分が作った作品の自分の展開だからこその「覚えている」ことと「覚えていないこと」、さらに変換して変わってくる世界のこと。
その上で、「自分が作った作品の世界である」というのは非常に独特というか、「この作品こうだったこうだった~」っていうユーザーにとっての懐かしいっていう気持ちもあれば、一方で「過去の自分ぶん殴りたい…なぜこんな設定にした…もうやめてさしあげて…!!!」っていう苦悩を抱いたりとか(羞恥心で殺されそうになったりとか)あるわけです。
「自分が作った作品の、自分の好きが詰め込まれたキャラクター性」がゆえのキャラクターの行動というのは主人公・イアナにとってはとても感慨深いものでもあります。
キャラクター性について
基本ベースに作っているものは逆ハーレム系乙女ゲーの要素が盛り込まれた恋と冒険、ロマンが詰まったRPGファンタジーよりのもの。
この作中に出てくるキャラクターたちはよくよく属性がちゃんとしていて、主人公非常に設定作るのうまいなあと思いました。また、欠点らしい欠点があまりないあたりもまた「中学生時代に好きで作ったもの」によるパーフェクトな設定(所謂「チート」ですね)をうまく活用できているというか。男キャラも女キャラも「ハイスペック」であるにも関わらず敵キャラクターであった自分(イアナ)に対して非常に陰湿で作り上げているのは学生らしさが見えます。
一時その流れからの嫌われ主人公というものが流行った時代を見ている側としては「そっち行ったか~!」みたいな部分もあった。
恋愛要素としては
個人的に悪役の子が転生して色んな人と接することで「その子」が変わることももちろんですが「周り」も変わるのは当然だと思います。
ただ一方で全員が全員好意を向けるのであれば「それってヒロインの乗っ取り、上乗せの類とあまり変わらない気がする」っていうのが昔からあって。要するにヒロインが嫌いな子が「こっちの子がヒロインで性格よかったらもっといい形になるじゃん」ってなっちゃうのと同じで、人間というのはそんな簡単に変わらないからこそ、色んなものが渦巻くからこそ面白いと思っています。まぁこれは私がこじらせてるタイプの人間だからだとはあるんですが(笑)読者のターゲット層がLaLa(=花とゆめ)であることを鑑みるとティーンズ後半~それ以上なので、人間臭さがここからもっと描かれてくれると嬉しい限りです。
イアナは死亡フラグを回避できるのか
本作では主人公・イアナ(本名佐藤さん)が「(本来いた現世で作った小説で)自分はすでに死んでいる(執事に殺されている)けど、生まれ変わったなら折角なので全力生き抜いてやろう」という部分がコンセプトにあります。
すでに死亡フラグは乱立されている中なので、「小説」そのもの、「展開」そのものが川の流れを戻すかのように彼女に対して死亡フラグをさらに乱立していきます。
この上で、どうやって生き抜くか、がコンセプトとして注視されているように感じました。
「THE乙女ゲー」みたいなタイプの要素を踏まえながら主人公の「社会人として生き抜いたがゆえの部分」が今後垣間見えてきそうですし、「あくまでも本作の”主人公”はイアナであったとしても、ヒロインはすでに”コノハ”がいる」という部分。
また、小説として作り上げたものを自分が満喫(そして同時に羞恥心で死にそうになる部分)しているところも含めて「どうするのか」「どうなるのか」という点でこれからも見ていきたいなと思います。
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