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【読書感想】トランクひとつだけで飛び出したくなる「スーツケースの半分は」

通勤の合間に本を読むことをしているのですが、久しぶりに紙の本を購入しまして。読了したのでその感想をつらつらと語りたいと思います。

近藤史恵さんは「ビストロ・パ・マルシリーズ」がとても好きなのですが、今回の小説はその雰囲気とはどうやら少し違うようで…。

本屋で見かけて一目ぼれして表紙買いっていう典型的衝動買いのケースです。手に取ってレジに並んでいる間に「あっこれ近藤さんの本か」と発見してびっくりしました。スタンド使いスタンド使いは惹かれあうみたいなもんですかね。

そんなこんなで本を読んだ以上はせっかくだしその感想をまとめたいと思って書き記しておきます。

今回のブログタイトルは米米CLUB浪漫飛行から。飛び回れこのマイハートです。米米CLUBの曲あまり詳しくない私でもさすがにこれはわかる。そして良い歌詞だなぁと思う次第。

旅行行きたい~~この現実という名の足かせから解き放たれて逃避しつつ現実に向かうためのリフレッシュほしい~~~なんていう意味の分からないことを言いつつ仕事しています(笑)

浪漫飛行

浪漫飛行

  • provided courtesy of iTunes

 

ブックデザインがとても可愛らしくて、小説の内容を象徴するものなんですよね。

ポップでありソーキュート。

 

スーツケースの半分は (祥伝社文庫)

スーツケースの半分は (祥伝社文庫)

スーツケースの半分は (祥伝社文庫)

 

ということで、ネタバレ考慮はしていません!つらつら語っています。

「スーツケースの半分は」あらすじについて

30歳を目前にした真美は、フリーマーケットで青いスーツに一目ぼれし、憧れのニューヨークへ一人旅を決意する。

出発直前ある記憶が蘇り不安に襲われるが…

 一言でいうと、「スーツケース」から連なる小説集です。

一つ一つが短編として独立していますが世界観や関係性が連なっています。

主人公となるのはいつメンこと友人4人組である真美、花恵、悠子、ゆり香。そこから派生して栞、優美、春菜、そしてまた4人組に戻り、和司という青年になります。

 

ざっくりとした感想

安定の近藤史恵さんの文体で、とてもすらすら読み解ける分かりやすく呑み込みやすいものでした。

 

ウサギだって自分で決めて何が悪い

物語の冒頭を飾る「ウサギ、旅に出る」では、真美というすべてのスーツケースの「最初」となる存在が臆病な草食動物である、いわゆる「守られ」タイプの女性というのが面白いなと。

旅に出たことがない彼女が夢見る世界、「ニューヨーク」ですが、そこに対して旦那は「今じゃなくても」と機会を逸してしまいがち。

 

旦那~~~そうじゃないんだよ旦那~~~行きたいのは「いま」って言ってるんだよ!!!

 

「ねーちゃん!あしたっていまさッ!」 ってジョジョの奇妙な冒険でも言ってたじゃないか~~~!!!って思う気持ちが読んでて旦那にとって彼女(真美)が大事であると同時に檻に閉じ込めて大事に大事に育てている状態になってしまっているなあっていう。

 

それに対しての真美の反論が非常に心にぐっときて「いいぞいいぞ~そうだそうだ!!」ってなりつつ、だいたいの心の中が「まったくもってそのとおりなのだ!!!!」って内心とっとこ走るよハム太郎でした。へけっ。

 

CDツイン とっとこハム太郎 ベストソングコレクション

 

CDツイン とっとこハム太郎 ベストソングコレクション

CDツイン とっとこハム太郎 ベストソングコレクション

 

みんな心の中にハム太郎がいるといいっていうツイッターのつぶやき見かけてから、全自分肯定してくれるハム太郎いたらいいなって思うようになりました。

 

真美の一件で思うのは、旦那には言えない傷が彼女にあると同時にそれはまた誰にしろあり得るような「言えない」「言いたくない」心の傷があるわけで、どんな形にしろ「被害者」を責めるのは間違っていると思うんですよね。それは「だってそんな場所にいったほうが悪い」っていうのはおかしいわけで、どんな状況にしろ手を出した相手が100%悪いんですから。

 

で、ふと思い出したのは牧野あおいさんの「さよならミニスカート」でした。りぼんでセンセーショナルな連載として話題を集めていますが、もう読んでてそうだよな…って思う部分がたくさん。

 

さよならミニスカート 1 (りぼんマスコットコミックス)

さよならミニスカート 1 (りぼんマスコットコミックス)

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インターネット連載もしているから見てほしい…。

shonenjumpplus.com

「無関心」な女子はいても「無関係」な女子はいない。

この言葉に尽きるし、このことは今作「スーツケースの半分は」の恵美にもいえることだと思います。

 

そんな恵美が、トランクと出会って決断する過程は一つの「踏み出し」として、自分の殻を破る、抑圧をはねのけるという意味でとても素敵なシーンだと思います。

 

恥じることなかれ、シンデレラ

第二話の「三泊四日のシンデレラ」の主役である花恵の物語は海外旅行になぜいくのか?という問いかけで「自分をリフレッシュさせたい」の答えの一つなのかなって私は思うのですが、同時に人とのギャップ(「そんなことをしに?」に通じると思う)に他の誰でもない自分が苦しむというのが切なかったです。

でも同時にわかる、わかるよ~…な部分も否定できない。

非現実を味わいたくて、誰かに大切にされたくてっていう、もちろん対価を支払ったうえでのことなのかもしれないけれど、その「場所」が好きなのか、そこに行くことで経験する「自分」が好きなのか、分からなくなること。また、そんな「自分」が自分で恥ずかしくなること。

私はサッカー観戦が好きだったり誰かと遊びにいったりとかすることが好きなのですが、依然徳島に夜行バスでいって試合みるためだけに朝いちばん並んでずーっと待って、90分のためだけに待機して待機してそのあと試合終わったらごはん途中まで食べてまた夜行バスで帰るっていうことをしましたが、それを「えっ」「それだけのために?」と言われたことがあります。分かる。私もちょっとそう思う。

 

▽当時の記事はこちら

amanatsu0312.hateblo.jp

 

でも、確かに目的はそれだけだけど(笑)それでもまぁ私はあの時のあの場所に行くという選択肢は間違っていなかったと自分では思っています。そのあとマフラーなくしたけど。

 

「丁寧に扱ってもらうことって大事ですよね」

 

この一言が、とても刺さる。花恵の職場の後輩にあたる桂木くんがとてもいいやつで読んでてぐっと来た。自分がそうだと思っていたことをふわっと受け止めてくれる人って素敵だなあって思うし、彼の言葉で花恵が救われるのがとてもよかった。

そして、自分自身で「そうだ」と認められるということ。それってとても大切なことですよね。言い訳するのでもなく、恥ずかしいと思うことなく、肯定できる。それは彼女のステップアップだと思います。

救われるまでに、花恵が「恥ずかしいと思う自分に負けたくない」というジレンマから背中をちょっとだけ押してくれるのは桂木君じゃないけれど、一歩を踏み出す決意に至る手助けのシーンがぐっときました。あそこぜったい実写にしたらカッコイイBGM流れでふっと顔を上げる横顔が出るに間違いない。

だから、あの終わり方はとても前に進んだ感じがあって良い。

 

一期一会の星

今回の話は「ゆり香」という四人組の中でもアクティヴに海外にいくタイプの人。

この話に関して言えるのは余田お前~~~!!!!!!!お前ってやつは最低だな!!!!!!!!何かあったら責任とれんのか!!!!感情に流されてもやっていいことと悪いことあんだよ!!!っていう。こういう人とはかかわりあいたくないなーっていう。もちろんそのつもりで書かれているのだろうけれど、読んでて腹立つ男No.1でした。最低か。最低だ。

もう一言でいうと「こいつ本当痛い目見ればいいのに」って思うけれど、たぶん別れた後海外旅行どうだった~って聞いたときにゆり香の悪口自分の都合の悪いところ伏せてべらべらしゃべるんだろうなと。そういう人いるよね。悲しいけれど。

 

で、その落下からの急浮上する素敵なお話として「現地の人」との物語として見たときの優しい気もちったらない。

海外旅行にいったとき、みじんも言葉が通用しないと分かっていた中でおろおろしていたら「どうしたの」と聞いてくれた人がいました。そのときに「あいむはんぐりー!」という割ともうどうしようもねえな、な一言を言ったら行きつけのお店を教えていただいたことがあった。とても良い経験であったと今も思うし、そのお店いったらその人から電話もらってるからわかってるよと言ってもらったことが忘れられない。

 

多分私はあの場所のことを考えたとき、ゆか香と同じように思い出すだろうなぁ、とか考えた。そういう意味で「星の王子様」っていうのはやっぱり世界に触れるたびにたくさんのことを教えてくれるな~っていう。

 

星の王子さま (新潮文庫)

星の王子さま (新潮文庫)

 

 

彼女の在り方は花恵とは違うけれど、彼女もまた、自分自身で「付き合いたくない相手」「行きたくない場所」に無理して笑顔でいるよりも「突き進む」という選択肢ができるのはかっこいいし、その彼女の旅に幸あれと思う。

まぁ何万回もいうけれど余田は許さない絶対にだ。

 

見栄と虚勢と意地と本音と

悠子に関しては「ライター」であることと「パリ」という場所への固執が強く、自分でも理解している「見栄っ張り」です。

そんな彼女の理想と現実と、それでも場所に固執するときに手を離されたと絶望しても明日が来る状況下で何を考えるのか…っていうのがポイントだと思います。

海外に住んでいる友達マリー(フランス人)の家にいこうとしていたところの、知らず知らずとして彼女を頼りに甘えてしまった自分と、それに対して見栄っぱりな自分のせいかもしれないというジレンマが印象的すぎて。

 

落ち込んだ中で、彼女がきれいなまま、傷つけたくなければいかなければいいと思う一方で、

でも、それでも旅に出たい。

飾りのようなパーティバッグではなく、酷使されるスーツケースのような人生のほうがよっぽど自分らしい。

というフレーズがとてもその通りだなあと思って、傷つくことが怖くてやってられるかという感情と、前に進もうとする力強さと、「自分の選択」が好きでした。

この作品群の女性たちは様々なジレンマを抱えていて、それでも前に進もうと決断する、そのひとつのキーがスーツケースなわけですが。

いわゆる「イキってる」自分とのジレンマ。他人と違うことに陶酔している自分へのジレンマ。そこから、”認める”自分のこと。

鼻持ちならない人間として彼女は描かれていますし、人間くさすぎて私は多分彼女とリアルにいたら友達にはなれませんが(笑)とても魅力的だと思います。

彼女の話は自分の仕事にプライド持ってるけれど、その足場がちょっとぐらついたときに読むとすっごい身に刺さります。一番読んでてしんどかった…。

 

自分がありたいのは「どこ」なのだろう

愛よりも少し寂しい」の栞はさっきの悠子のかつての自分、また同類みたいなかんじがすごいします。

まさに今!!この場所で!!わたし!!フランスで!!生きてるの!!感がして、こう…元気だねえ…みたいな気持ちになります。

日本人客が嫌いな流れの「日本人ばっかじゃん」という日本人に対してお前らがそうさせてんだよバーカ!みたいな内心はとてもあっ…フランスにいる自分に対して陶酔している…感があって、なんだか目を逸らしたくなります。今風にいうとイキってるというか。

フランスという場所、フランス人の彼氏がいる自分。勉強が思うようにいかなくても、そこで必死にアイデンティティがあると齧り付く様は滑稽でありながら必死に背伸びをし続けるいじらしさとの中にあります。

前章の悠子の角度では見えなかった彼女の内面・悩みとコンプレックス、心の傷口がザクザクと刺さってる感じがわかる、わかる……といかに虚勢を張ろうと自分の立ち位置は変わらない。この場所に行けば何か変わるわけではないのだよなあ……と。

まあ何を思い出すってスラムダンクのワンシーンなんですが。

 

バスケの国アメリカ その空気を吸うだけで僕は高く飛べると思っていたのかなあ……

第75話 ファインプレイ

 

そんな彼女の災難ながらも変わっていく1日みたいな流れは「コーヒーをめぐる冒険」という映画をなんとなく思い出させました。

自分というものがどこにあり、またどこに向かっていきたいのか、≪場所≫にこだわるのか≪人≫にこだわるのか…っていうのがよく描写されていて刺さる、でも嫌いじゃない。因果応報と思う部分と彼女もそのことを同意見だと笑う部分が刺さって刺さって…(笑)

 

親の心子知らず、寂しさもまたしかり

また、物語の1つには作親と子供の話になって合わせて読むことでわかることもあります。

この小説はすべて「青いトランクケース」にまつわる物語なので、この親子もまたストーリーに噛んでいる人たちになります。

親一人子一人の≪あり方≫だからこそ、視点によってこの時の彼女の感情は、と紐解いていくととても面白いです。

また、海外基準になっていた≪外の世界≫ですが、トランクケースが運ぶ世界は外だけではなくて、彼女たちの視線としてのいろんなところへの見方、考え方、踏み出し方だと思います。

誰一人として同じ人間がいないからこそ、四人組や栞とは年齢も考え方も違うからこその見方。

そして<これから>へ向けている中での希望と現実に対しての打ちひしがれ方。進む道が見えない状態。誰もあり得て、誰も悩ましく美しい世界だなあと思いました。

行けば変わる、という意味では前の栞と似ているけれどまたちょっとニュアンスが違う。

この2つの話は描き方としてとても好きで、距離感や親としての心情、それでもと決めた子どもの心。そして二人の距離感考え方が程よく、だからこその読んでて浸透するような、そんな話でした。

 

彼の回想

この一冊の本、このトランクケースの物語として全ての集約するための物語。

読んでいて「いやそんな人いるのか?」という部分はありますが、世の中は広くそういう人がいるのかもしれないと感じさせてくれる部分も多かったです。

彼のバイトとバイトとバイトとバイトの重ね方の中での見つけたこの出会いというのは袖振り合うも他生の縁、という日本の諺を思い出させてくれたし終わり方がストン、とまっすぐに落ちてきました。

浸透するというよりも文字を受け取って、それを直に感じられると言えばいいんでしょうか。キャラクターの考えがそれぞれある近藤さんの本の中では一番「そうだね」って同意しやすい人というか。

どの話も基本的にコンパクトで読みやすいものたちなので通勤中に1話ずつ読めちゃいそうなメリットがあります。移動時間で読める寝る前に一章だけ読むだけもあり。

 

読み終えて旅に出たくなるような気持ちになる、そんなお話。

「bon voyage!」そんな風に言いたくなるような。なんかこう、ポジティブな意味で前に進む第一歩の補助をしてくれるような、そんな一冊でした。

2S型 ブラウンキャメル/ミニトランク(ショコラ) トランクケース

旅は道連れ世は情け、なんてもいいますが、出かける時そんな素敵な出会いがあればいいなあと、そんなことを思うばかりです。

この小説全てをドラマに実写にするのお金かかるだろうなあと思う部分もありますが、やるならこんな感じの形かなあと年齢が高い女優さん、俳優さんをイメージしてなんだかふわっとあったかい気持ちになってました。花恵は松岡茉優ちゃん系の方にやってほしいイメージでした。

 

Bon Voyage

Bon Voyage

ということで、インターネットの旅を続けるみなさんも、実際にどこか出かけるみなさんも、素敵な旅になりますように!

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