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舞台「今度は愛妻家 THIS TIME IT'S REAL」雑感

 戸塚祥太さん主演「今度は愛妻家」が東京よみうり大手町ホールにて公演されました。ということで、本作を観劇した雑感になりますので、いつも通りネタバレは満載になります。

THIS TIME IT'S REAL

今度は愛妻家

 

本作はもともと舞台用に作られた作品ですが、映画になったりと様々な形で表現をされています。今回は一番はじめに作られた舞台の脚本演出コンビニよる舞台化。ちなみに映画では豊川悦司さんが演じていらっしゃいます。

 

あらすじ

北見俊介(戸塚祥太)はかつての売れっ子カメラマン。が、ある事をきっかけに、1年間仕事もせずいい加減なプータロー状態で、頭の中は最近知り合った女性・蘭子(黒沢ともよ)へのエッチな妄想で一杯になっている。
妻・さくら(三倉佳奈)には、毎日人参茶を与えられ、子作り旅行に行こうとせっつか・・・・・・、ああ、この妻さえいなければ・・・と、不穏な事さえ頭をよぎるダメ男である。
俊介の助手・古田誠(浦陸斗)はそんな彼を心配し、贔屓のお店のママ・文太(渡辺徹)も様子を見にやってくる。
誠は、俊介がちょっかいを出そうと考えている蘭子に好意を抱いているが、当然何も出来ず、その蘭子はこの二人の男たちを使って有名になることを考えている。そして、文太は訳ありらしく、得体が知れない......。
愛すべきちょっとダメ人間たちが織り成す、カラッと笑えてホロッと泣ける、ちょっとシリアスな物語。

作品の感想

今度は愛妻家

ステージは至ってシンプル。人気カメラマンの家の中での出来事なのでステージのセットが転換するなどはなく構成されています。

登場人物はカメラマンの「北見俊介」(戸塚祥太さん(A.B.C-Z))、彼の妻である「北見さくら」(三倉佳奈さん)、新米モデル「吉沢蘭子」(黒沢ともよさん)、カメラマンの北見の助手を浦陸斗さん(AmBitious / 関西ジャニーズJr.)、そして謎めいたニューハーフの男性を渡辺徹さんが演じます。

 

ストーリーとしてはブラックユーモアというか、劇場特有の下ネタやテンポの良い会話が飛び交っている内容でした。

コメディ要素が色濃い前半と、段々と浮き彫りになっていく「違和感」、そこからの自身の罪悪感との向き合い方がはっきりと出ている印象です。

タイトルの回収も含めて「すれ違い」と「時間が戻れない、状況を変えることはできない」上での向き合いが重要になってくる物語でもありました。

全体的に「少し・不思議」というカテゴリでのファンタジー要素も含めながら、現実でそうだったらいいのにな、の願望がスパイスにもなっているようにも感じられます。

 

俊介は発言一つ一つに対して「年齢に対してきちんと考えをブラッシュアップして年相応の動きをしてこなかった」というような、子供と大人をはらみながら動いている部分が濃厚にある人物。さくらとの物事の言い争いを含めてコミカルさが強い一方での自分が「どう」だったのか、というところ、見えなかった(見ないようにしている)のがわかるぶん、リアルとの受け入れに関してのジレンマが浮き彫りになっていました。

さくらという妻に対して「鬱陶しい」という部分と「それでもやっぱり大事にしていないわけではない」のと「自分がこうありたい」という自由度が組み合わさっていて、甘えていた事実、喪失感、分かっている上での自分と幻影の妻との向き合いの悩み。ある意味でとても等身大だなとも感じました。

戸塚さんのかすれ気味の「なんで死んじまったんだよ」という一言の重みがじんわりと響きます。

また、ご自身がイメージする愛妻家についてのインタビューも含めて読み込んでいくとご自身の中の俊介像の参考になっているのかな、とも感じました。井ノ原さんを上げていらっしゃるのを見て嬉しさもあります。井ノ原さんのこと本当に大好きですよね、戸塚さん。

www.lmaga.jp

 

三倉佳奈さんの明るい声にぱっと花咲く空気感が役にとてもハマってて素敵でした。お名前が「さくら」である一方でひまわりのような華やかさと、その上で「幻影」として、彼の思い出の中での「彼女」とのお芝居の違いも興味深かったです。同じ人間でありつつ、少しずつ違う。ご健在だったらどんなふうに言葉を紡いでいたのだろうとか想像できる形でした。

 

作中での親子、夫婦、師弟、それぞれの「愛」がキーワードにもなっていました。
男性だから、女性だから強い弱いというよりも「人と人」の向き合いの中での心の柔らかい部分を突きつけあってむき出しになること、自分が「かっこつける」ではなくて心に向き合うことでの一歩の踏み出しがある作品。

 

また、ブンちゃんこと渡辺徹さんのママとの距離感。制作されていた時代背景もそうでうがLGBT的な要素を嘲笑うわけではなく「どう向き合っていくのか」を添えつつ、生き方の肯定であるような気がしました。あっけらかんとした人ほど背景にいろいろな悩みを抱えている――というのは現実でもある話で、弟子やモデルの子達の悩みを出しながら“向き合う”ということへの注力がしっかりとありました。ジャニーズJr.の浦くんのお芝居も初めてみたのですがういういしさもあり、剥き出しな感情がとてもこれから含めて楽しみだな!と感じさせる作品でした。

 

全体的なコミカル感がある一方で、シリアスに言葉一つ一つが「ぽつっ」と出てくるシーンがとても印象的な形でした。

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