7月9日封切りの映画「シング・ストリート」を見てきました。
監督は「はじまりのうた」「Once ダブリンの街角で」でお馴染みのジョン・カーニー氏。
洋画の映画監督で私が多分一番好きな監督です。「はじまりのうた」「Once」もとってもいい映画でしたが今作もやっぱりいい作品だった。
シング・ストリートみてくる!(*´ω`*) pic.twitter.com/ZAkpnmxhub
— 甘夏*(´ε`)/夏はSRXよろしく! (@amanatsu0312) 2016年7月10日
なんていうか、傷は残るけれど、それでも前に進んでいく生きる力みたいなものがとてもいい。元気が出ます。「元気を出したい時」に見るのにおすすめしたいです。
ということで、以下ネタバレ含みつつ感想を書いていきます。
あらすじ
1985年、大不況下のダブリンの町。
離婚寸前にまでなっている両親の元、引きこもりの兄、建築学を学ぶ姉をもつ14歳のコナー。「金銭面的に学校を転校しろ」と言われ彼は転校させられる。
……が、転校先では「雄々しいやつ」が評価されており、いままで上品な学校ですごしてきたコナーは見事にいじめにあってしまう。
冴えない毎日を送る14歳の少年のコナーは、学校の前である日自称モデルのラフィーナと出会う。
彼女の気を引くため、コナーは「バンドをやるからミュージックビデオに出て欲しい」と言い出す。
同級生たちとバンドを組み、ミュージックビデオの制作を始める。しかし、ロンドンに行く夢を持つラフィーナには年上の彼氏が居るわけで…
というわけで、ぱっとストーリーを聞いてみると「ボーイ・ミーツ・ガール」からの少年がのし上がる物語!に見えますが。
割りとそんなことはないです。ジョン・カーニーのお話のいいところって「ボーイ・ミーツ・ガール」からのハッピーエンドなだけではない人の生き方の交錯みたいなものが見れるところだと思います。これもそうでした。
80年台をすごく踏襲しています。
当時、80年台のアイルランドでは離婚は認められていなかったそうで…。
もともとこのお話はジョン・カーニーの実体験を元に作られているそうです。
「自分自身を反映した作品を作りたかった。ただの音楽の物語にはしたくなかったんだ」と、 ジョン・カーニー監督は企画を立ち上げた時のことを振り返る。 そろそろ、しっかりとした自伝的な音楽映画を作る時期に来ていると感じていたと言う。 「自分の人生に語る価値のある本物の何かを見つける努力をしたかったんだ。」
(公式サイトより)
コナーの兄の慕う気持ちと、兄から見たコナーの違い
コナーは14歳で末っ子で目をきらきらさせている「未来に生きる」少年なわけですが、この物語の主人公であるコナーをゲームで言えばお助けキャラのようにサポートしてくれるのがアニキ・ブレンダン。ブレンダンがこのストーリーのもう一人の主人公と言ってもいいと思います。
ブレンダンは音楽が好きで、コナーはブレンダンの影響を強く受けています。
音楽もそう。人生論についてもそう。けれど、ブレンダンの立ち位置は「大学を中退して、人生を棒に振っている青年」。20代半ばの引きこもりです。言ってしまえば「親のすねをかじって生きている」人。
しかも、かつて彼はここではないロンドン(=都会)にいこうとして、必死にあがこうとして、親に止められている。
そんな彼が弟のコナーに音楽を語りサポートしてくれる中で、コナーを見ながら葛藤するわけです。本当は俺だって、俺も。コナーに嫉妬してコンプレックスを刺激される様は歳を重ねた大人なら余計に思うものがあります。
“人生は物語のようにうまくいかない” これはコナーにも振りかかるし、ブレンダンの実体験にもかかわっているし、ヒロインのラフィーナにもかかる。
ラフィーナも都会にいくことを夢見て、全てを振り切って都会にいって(自分を慕ってくれるのが明確にわかるコナーを振り切って)みたけれど数日で挫折し、何も持っていなかった自分に気づき、ダブリンに帰ってくる。夢をみてキラキラしていた彼女の瞳は淀んでいて、それでもまっすぐに生きようとしている前に進もうとしているコナーにすがろうとして、彼から手を振り払われているわけですが。
そこでまた立ち上がろうとする、立ち上がったラフィーナは美しいですね。挫折してまた立ち上がれるかそうじゃないかの違いってとても人間としての成長が出ると思うわけです。ラフィーナはボーイミーツガールで夢を追い続けた少女だけど「夢見る少女じゃいられない」って現実に打ちひしがれて、だけどコナーに引っ張られるように前を向いた。その過程がとても好きです。
作中で、コナーがMVを作るときにラフィーナを待つわけですが。
そこで描写されるミュージックビデオは彼の「夢」とか「希望」とか「こうだったらいいな」が詰まっているわけです。
両親が手を取り合って見に来てくれて、満員のお客さんがいて、ラフィーナがドレスを着てやってきてくれて、自分に無理強いをしてきた校長がダンスを踊り、彼女の年上の彼氏が絡んできてもブレンダンが右ストレートで倒して、全てがハッピーに終わる。
けれど、それはあくまで彼の妄想にすぎないわけで。
現実は、あくまでも寂しく体育館に小さく自分が依頼した人たちが何人かいるだけ。それでも彼は現実を受け止めながら、歌を歌い続ける。このシーンとてもぐっと来ました。
個性的なバンドメンバーたち
マネージャーになる少年、また音楽センスを持った作曲も手伝ってくれる少年。それぞれ個性豊かにバンドのメンバーが支えてくれます。最初のメンバーがかき集まっていく流れはワクワクしますね。
特にコナーの音楽においての相棒になったのがエイモンという少年。ウサギを愛し、コピーバンドをやっている父親の息子でギターベースピアノ木琴何でもござれの凄い少年。彼も一見すると冴えない少年ですが……彼がじつにいいあじをしています。
コナーと一緒に作曲するさまは少年のきらきらとした夢を持っている姿で見ているこちらもなんだかほっこりします。
「ラジオスターの悲劇みたいな声になる」と掃除機のホースで声を出しているところなど色々なアレンジを試みる姿は面白い。
最初はぎこちなく、完全にただのパクリバンドだった彼らが1つずつブレンダンの声をきき、作り上げていくさまは青春そのものでした。
また、エイモンがコナーに背を押すのがとてもいい。「その時はお前がバンドを引き上げてくれよ」という言葉。もうこれは全てが集約されていて、最後を見終わった後にあれはどんな心で彼は言ったのだろうとか思ったり、コナーはこの後彼らを引っ張りだすことが出来たのかなとか妄想が広がります。パンフレットに「期待の新人バンド」として取り上げられている記事を見てそうだったらいいなあと心から思うばかりです。
楽曲が80年台のものを使っているから、ディランディランを始めとした「あっ懐かしい」となるものがいっぱいです。といっても私は80年台の洋楽についてそこまで詳しくないのですが……ラジオスターの悲劇といえば天才てれびくんのイメージが強くて(笑)聞き覚えのある楽曲がたくさんだったり、ああ、明らかに影響を受けているなっていう衣装や格好をしていくシングストリートメンバーの格好もほっこりしました。
この作品でコナーとエイモンが作ったオリジナルソングはどれもこれもいい。最初の中華っぽく!っていうところは思わずフレーズに吹き出したくなったり、ラストの「茶色い靴」も痰飲下がる気持ちになるし、ラフィーナに宛てた楽曲もどれもこれもじん、と来るものが多いです。
さらにこの作品の最後には「はじまりのうた」でキーラ・ナイトレイの元恋人役として出たアダム・レヴィーンが歌っています。彼からもエールが送られています。
今作のコナーと、アダム・レヴィーンが前回演じた役はすこし通ずるものがあって、同じように夢を持ち、歩き出し、コナーは「歩き出すまで」が描かれており、はじまりのうたのアダム・レヴィーンの立ち位置は「その夢の途中で見えなくなった」部分があります。コナーとラフィーナははじまりのうたの二人みたいにならないことを願うばかりです(笑)
決してハッピーエンドなだけとは言えない良さ
いつもフォローさせていただいている方がこのようなことをおっしゃっていました。
最近、辛いことが立て続けに起きて、かなり凹んでいた。『シング・ストリート』を見たら、痛みさえも内包した上で希望を見出し、自らの居場所を形成していく勇気を思い出した。ジョン・カーニー監督は人に元気を与える天才だとしか思えない。
— えすでぃーけー (@esdeekey) 2016年7月10日
それだ!!と思いました。
シング・ストリートの良い所は人生はハッピーエンドじゃない。痛いところは確かにいっぱいある。満身創痍になりながら、それでも進むしか無い、進むのは自分で無くてはならない。その美しさがたまらない。
見送ったときのブレンダンの「YES!!」という叫び方は夢の残骸、諦めてしまった彼がまた瞳の輝きをもった瞬間だと思いました。
ダメ人間かもしれない。社会的には底辺なのかもしれない。それでもまっすぐに突き進むコナーが頼ったのは彼で、彼はコナーを見て、これからの日々はどうすごしていくんだろうと思うと感慨深い。
なんというか、ああ、見に行って良かったな~と思う映画でした。
「人生はいいことばかりじゃないし、どうしようもないこともいっぱいある。いっぱいあるけど、それが全てではない」というか。それだけじゃなかった。前を進んでいこうと大海原を小舟で突き進む、荒波だろうと何だろうと突き進むコナーとラフィーナの姿はとても感動を覚えました。
人間は何かを捨てて、何かを選ぶことをしなければいけないもので、それが人生ってもので。
そういう意味でも、周りに笑われようとなんだろうと「うっせー!!俺はやるんだ!!」っていう志をもって、きらきらと突き進もうとする青臭さと、土臭さと、現実に打ちのめされて、どうやったって変わらない部分(両親の不和は結局解消されていないし、バンドはじゃあその後どうしてるんだろうと思うと、シングストリートでは出来ないわけで、ダブリンという町の不況は変わらないわけで)を抱えながら、“ロンドンに行けば何か変わる”と慢心するのではなく「自分の力で変える」という気持ちを持とうとする力はとてもいいなあと思います。
なんだろう、中島みゆきの「ファイト!」を思い出す作品でした。
もれなくCDを見る前に購入してたわけですが(映画館で売ってた)
うん、何ですかね。
買ってよかった。やっぱりこの監督大好きだわ…ってなりました。
上映館はまだまだ少ないですが本当色んな人に見てもらいたい映画だと思います。
はじまりのうたみたいに広がっていってほしいな。