橋本君主演舞台「逃げろ!」が始まりました。ありがたいことに友人と一緒に観劇することが叶い、見てきました。
モーツァルト 3本の傑作オペラの台本を書いたイタリアの詩人・台本作家奇想天外な<ロレンツォ・ダ・ポンテ>の"逃げる"人生を鋭く描く!
ロック・アレンジされた楽曲にのせ、実力派キャストによる音楽劇!
佐藤流司さんを見たのもしかしてナルステぶりではと驚いています。月日ってあまりにも早い。
ということでざっくり感想です。
ストーリーラインについて
コメディ色の強いロックミュージカルでした。スピード感のある、ジェットコースター的な要素がかなり強いタイプのものです。
ミイラ取りがミイラに、という言葉がありますが、ダ・ポンテという男がいろんな場所で君子危うきに近づかず、逃走を繰り返したうえで出会った男の天才「モーツァルト」との流れで大幅に運命が流転する、というものです。
印象的だったのは篠井英介さんですかね。登場人物が全員コミカルに描かれている中で面倒くさそうな人材として描かれているのがポイントです。
つらつら感想
仕事におけるCEOが退陣したあとに別の人物が立つと全体の方針が大きく転換するのと同じように、時代の波に飲まれてしまった人たちが同じようにあがいているお話として描いていました。
転職するのか、それとも維持していくか。一般生活においても同じシーンを経験したことがあるような部分も多角的にあったように見えます。
そのうえで、「逃げるが勝ち」「三十六計逃げるに如かず」という日本でも多く使われる言葉を思い出すお芝居でした。ダ・ポンテは逃げ切れなかったというのがまたポイントですね。逃げて逃げて逃げて、それでも逃げ切れない。自分の選択は常に付いて回るし、足元は常に掬われる可能性がある。
モーツァルト!とかFGOとか別件の作品で見ている様相とはダ・ポンテのこの「逃げろ!」は雰囲気が違ったのが印象的です。
個人的に気になった楽曲としてはサリエーリのリテイクを繰り返していく曲ですね。リテイクを繰り返している間にクリエイターに1円もお金が入ってこないんだよな……と以前友人のクリエイターが嘆いていたことを思い出しました。この世は無常。
また、テセウスの船の問いかけと同じで「いろんなエッセンスを入れて、どんどん自らのものではなく、編集者(依頼者)の望むものになる」ものは果たしてそれは「作り手のオリジナル」といえるのか?という疑問が生じるところは刺さりました。
作ったのは間違いなく彼であっても、ブラッシュアップという名のリテイク、繰り返されていく中で出来上がったものが「作り手」が納得しているかどうかで大きく異なりますよね。少年漫画とかで編集者に色々言われて完全に別物になるケースもあれば、担当者とのディスカッションの上商業として成り立つケースもあるし。
「相手との関係性」で成り立つものでもあるように思います。だとして、サリエーリとダ・ポンテのシーンは諸々が凝縮されていましたね。
お芝居としての感想
セットがシンプルで、人と人との動きで空想をもたせるような作りだったのがスズカツさんの作り方特有のそれなのだろうなと思いました。過去作でも見たときとしかりで。
ダ・ポンテとモーツァルトが喋るときはポップに明るく賑やか。まさに「ヤンキー」「ならず者」「悪ガキ」あたりが凝縮されて悪巧みしてやりたいことやってやろうぜ、一花咲かせてやろうぜ!が見えるかんじのライティングで、派手目のメイクがよく映えていました。
音楽劇なのでいろんな楽曲を披露されていましたがどれもギターの音が響くタイプの音楽なのが特徴的でした。
モーツァルトのソロは佐藤流司さんが自分の思うがまま、天真爛漫というか縦横無尽にステージを走り回り、いろいろなキーワードを引っ張り出してきます。ときに悪童、ときに神童。凡才との一線を画したような演じ分けとして好きに、自由に走るモーツァルトにダ・ポンテを演じている橋本くんがときにストッパーとして駆り出されている姿が印象的でした。
他キャストについてもよく知る方々が集っているお芝居なので立ち位置含めて「こういうことするとどうするかな」みたいなものがリンクし合っているように感じました。座組としてフリー要素(アドリブ)のレスポンスが興味ぶかかったです。
このうえで篠井さんの厳粛だけどコミカルさが際立っていて、見ていて一つの呼吸でも見せるお人だなと改めて。
ロックとは自由であり、衝動であり、感情であり反骨であり、色んなものから変わっていった時の「振動」でもあります。それを組み合わせることでスズカツさんの思想や今の世の中に対する意見したいことを詰めて、形にして披露していったのかな、とも。それゆえこの作品を国立劇場でやるというのもなんというか不思議であり、一方で「世の中にはいろんな意見がある」という意味でも詰め込まれたがゆえ、な要素もあるのかな、とか考えたり。
作品を通じて同意にはならなかったけど、また同時にではお前はどんな考えなのか?を改めて考えさせられるような作品でした。