新年1発め、毎月1日は映画の日ということもあり「よっしゃー映画みるかー」という軽いノリで映画を見てきました。ちょうどタイミング的にもう終わりそうだったこともあり、菅田将暉・桐谷健太主演の「火花」です。
同作はお笑い芸人の又吉直樹氏による小説が原作で、今回の映画化に結びついたものとなっています。
おおよそ自叙伝みたいな形で言われていますが、そのへんも含めてぼちぼちと。
「火花」
原作について
原作は前述しましたが又吉直樹による小説。
現在は文庫化もされており、より、手に取りやすい形になっているかと思います。
アメトーークでも知られている読書芸人で、その読書のジャンルは幅広くあれもこれもこっちもという印象。
で、そのうちの彼の実体験かとすら錯覚するほどの小説が、今作の「火花」です。芥川賞を受賞し、話題をかっさらいましたね。
全ての作品に通ずるあらすじ
まったく芽が出ない芸人・徳永は営業先の熱海の花火大会で先輩芸人・神谷と出会う。
「あほんだら」というコンビで常識のワクからはみ出た漫才を披露した神谷の姿に魅了された徳永は、神谷に弟子入りを志願。
「俺の伝記を作ってほしい」という条件で神谷はそれを受け入れる。
人間味にあふれ、天才的な奇想の持ち主でもある神谷に惹かれる徳永。神谷もそんな徳永に心を開き、2人は毎日のように飲みに出かけては芸の議論を交わし、仕事はほぼないものの充実した日々を送るようになる。
しかし、そんな2人の間にいつからかわずかな意識の違いが生まれるようになり……。
めっちゃ端的にいうと「お笑い芸人がどうにかこうにか売れたくてもがくけど、其の横で自分と違うテイストのお笑い芸人に出会い、才能を見込んで弟子入りしたけど、自分自身の「どうありたいか」を模索していくうちに何だかあれれこれでいいのかなあって思う話だと思います。
Netflixオリジナルドラマ「火花」
実写化は初ではなく、Netflixで一度映像で全10話で放送。ちなみにこの後同じ作品を編集してNHK総合でも放送されたそうです。
こちらの主演は林遣都。「HiGH&LOW」をはじめ、各所で活躍中の俳優さんですね。荒川アンダーザブリッジが個人的には好きです。後は連続テレビ小説「べっぴんさん」でもドラマーの役が印象的。
「待って、オブラートに包んでもあいつ最低やんけ!!」って総ツッコミされながら友人と見ていた思い出があったり!(笑)
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ちなみにNetflixでの総監督は「PとJK」「ナミヤ雑貨店の奇蹟」「オオカミ少女と黒王子*1」、「娚の一生*2」を手がける廣木隆一氏。
なおこの方、2018年には「ママレード・ボーイ*3」が決まっています。ママレード・ボーイどこまでやるのか割りと話的に大分重苦しいのに絵柄で乗り切ってきたりぼんの金字塔的(アニメも好きです)。この作品を吉沢亮という「超二次元顔」を用い、どう作り込むのか…実は期待しています。
映画を見た後にNHK総合でやった再放送を撮り溜めしておいたのでざっと見ましたが、たった一行で記された内容を濃密に盛り込んでおり、其の点がとても評価されたように感じます。個人的にはヒロインである真樹に門脇麦という選択肢がとてもいい。後居酒屋の店員に山本彩が出ているのが印象的でした。
映画版「火花」について
監督は板尾創路。
仮面ライダーでは「烈車戦隊トッキュウジャーVS仮面ライダー鎧武 春休み合体スペシャルに声だけ「仮面ライダーフィフティーン」として出ていました。
やりすぎコージーでも話題になる、本人も「お笑い芸人」な人です。
主演は前述したとおり新進気鋭売れっ子俳優な菅田将暉と、こちらも最近大人気ですね、桐谷健太のW主演になります。
また、菅田将暉は報知映画賞主演男優賞を「あゝ荒野」「火花」「帝一の國」等を始めとした4作の芝居が評価されて受賞されています*4。しかし出演作品を並べてみると温度差が激しい。帝一の國のハイテンションぷりは本当にすごかった。
(帝一の國の感想→「帝一の國」を見てきました/若手俳優大集結!素直に笑えるいい映画でした)
感想
菅田将暉が組んでいるコンビ「スパークス」の相方、二丁拳銃の川谷修士が非常に良い芝居をしているように感じました。あ、この人お笑い芸人なんだ、と芸人に超絶疎い私はどこかの舞台俳優さんなのかと思ってました。
菅田将暉の「自分がこう思ったらこうでいたい」という徳永という人間性を踏まえた上での戸惑いは【夢を追う、でもその夢も擦り切れる、でもやっぱり諦めきれない】というすがりつきにも似ていて藻掻いている様が実に痛々しいほどながらも共感を覚える中身でした。
清々しい爽やかな印象はなく、お笑い芸人ってそうだよなあなんかちょっとどす黒い何かが見える部分があるもんなあと自分の持っているお笑い芸人の印象を踏まえながら見ていました。小さな小さな劇場で、その劇場に立つために何度も何度もオーディションを繰り返して、でも生活するためにバイトをしなくてはならなくて、のローテーション。そのうえボロカスに言われたり。そのへんは小説でも感じましたが本当に下積みして下積みしている人ならではの部分だとも思いました。
また、作品が吉祥寺を舞台にしていることもあり、井の頭公園、ハモニカ横丁などをはじめとした場所を写しています。昨年の点灯式では実際に板尾氏が訪れた様子。
作品として見ると「どっちかに共感できれば」とも思うのですが、私は徳永や神谷よりも、山下にすごく感情移入が出来ました。
それでも「夢を追おう」とする彼らの痛ましいぐらいの努力して努力して努力したところで結果が結びつくわけではないという葛藤は非常に痛々しく視線をそらしてしまうわけですが。
一番印象的だったのは螺旋階段の中でみんなが並びネタを併せていて、その狭い世界の中での披露のために頑張るところ。もう見ていて「しんど…」って思いました。オーディションを勝ち抜かなければならないなかの必死こいてのあがくところが見ていてしんどい。
良いシーンを撮るなあって思ったのは予告でもやっていた「スパークス」の最後の回。泣きそうになりながら必死に「スパークス」として、徳永と山下がネタを披露するところはうっかり泣きそうになりました。
「文句ばっかり言って全然ついてきてくれなかった」「ほんま楽しくなかった」そういいながら、お客さんたちに、たまに自分たちが潰れそうになった中で、それでも賞賛してくれる声があったというのは、ファン冥利に尽きると思います。
惜しまれながらも、自分だって終わりたくないのに、それでも夢が終わっていく。それはレ・ミゼラブルにおけるファンティーヌが歌った「I Dreamed A Dream(夢やぶれて)*5。
彼らの世界は、「芸能」で生きようとしていた日々の中で、山下の結婚がきっかけとはいうけれど、いろんなものを折り合いをつけて、自分の中でピリオドを打つ、幕を引くシーンは正直ぐっと来ました。
泣きながら、ぐちゃぐちゃになりながら「感謝してません!」「大嫌いでした!」っていう一見すると「なんだこれ…」っていうところなのですが、菅田将暉と川谷修士のお芝居が非常に良かったです。
こちらのインタビューが非常に興味深かったのですが、私が好きな前述したシーンの、
菅田「解散ライブのシーンでのことです。基本的には台本通りなんですが、板尾さんが『1つだけアドリブを入れるとしたら…、もし修士が泣いていたら“おまえ、なに笑うてんねん!”って突っ込んであげて』って。それ聞いたとき、鳥肌が止まらなかったですね。なにその洒落た演出! って思いましたし、素敵でしたねえ」
を菅田将暉くんも挙げていて、そうなんだよなあ、そこで「笑うてんねん」って言うって、あくまでも、彼らは、お笑い芸人なんだよな、っていうシーンとして心に残ったので、いいな、と心に残った部分を噛みしめるばかりでした。
また、木村文乃のいいように転がされているようで実はしたたかな部分と、どこかで神格化していた「姐さん」の部分のズレ、最終的に子供と朗らかな人生を送っている「普通」のギャップも良かったし、そこで気づかないというのもまた人生というか。
夢を追う若者を不動産屋として社員として見送る徳永も色々思うところがあるんだろうなっていうのが伝わってくる、同じ「吉祥寺」という場所なのに、同じ「昼」なのに、こうも違うんだなというギャップたるや。
また、神谷についてですが、神谷と徳永の絶対的な違いがあって、それは「常識」とか「尖っている」とかそういうものだけではない。神谷に心酔し、弟子にしてほしいと懇願していた徳永と神谷の対峙シーンで全く変わっていく、道の分岐が明確になるところが顕著です。例えば、髪の色を銀髪にして独自の道を行った徳永に、神谷が同じことをして、「オリジナリティを持つって言ってたじゃないか」と徳永が言うところで、師弟関係が解けつつ合ったのをよりはっきりと明確化されたように見えたし、その後の居酒屋で「Fカップのおっさんって面白くない?」っていう発想から豊胸手術をした神谷に徳永が理論的に「周囲がどう思うか」、”嘲笑い”と”笑い”の違い、自分だけが笑えばいいわけではないのだということを示唆しています。これはもう逆転しているといってもおかしくないわけで。
僕たちはどうやっても、周りの目を気にしないなんてことはできないんですよ、に近いニュアンスの言葉にそうだな、と思いました。
「あくまでもナチュラル」でいられるのはやっぱりある程度の最低限のルールがあって物事は存在していて、何をしていもいいわけではない、というのは「お笑い」の中にもあるんだろうなと思います。
神谷はいわゆる劇薬的な部分があり、最初の熱海のシーンでも「地獄!地獄!」とやたらと人に対していきなりがなって指差して「お前は地獄行き!」っていい出しているわけで、それの”何が楽しいの?”っていう人の意見はいやあ実にその通りだよなと。自分が熱海にいって見たらきっと「何あれやばい…」っていって視線そらすよな~と。
ただ、神谷に対して言葉に出来た徳永は最初のシーンのちょっとうつむき加減の、怖がりな姿ではなく、社会経験を経て、苦い思い出もいっぱい作って、同時に自分のことを一握りでも「いいよ」って言ってくれる人が居たから、今の彼がいるのだろうと思います。
最後の同じ、熱海の居酒屋でのやり取り。
彼らは世間的に見たら「負け組」だろうけれど、決して「負け組は存在価値がない」ように描かれていません。
自分たちが負け組だったとしても、自分たちを見て、成功した連中は何かを思う、切磋琢磨しあいながら、削れていったものたちがあったから、磨かれる何かがある。
神谷が語る言葉は、どうしようもない駄目な男として描かれることが圧倒的に多いように感じた彼を一瞬のきらめき、火花みたいにバチバチと印象を与えるように見えました。
また、そういう意味で桐谷健太氏を今回の「神谷」という人物で選んだのには納得がいきました。どことなく、何となく、「何考えているのか分からないけど、ギラギラとしたものがある」人の空気感を持つのがお上手なんですよね、彼。
最後のモノローグである「生きている限り人生にバッドエンドはない」。
敗者だろうとなんだろうと、人生に【遅すぎた】はないのだというふうによく聞きますが、彼らの人生もまたここから、進んでいくのだろう、と感じさせてくれました。
「芸人に引退はない。その芸はずっと続いていて、何かに影響を与えていて、だから引退はないのだ」という神谷の言葉は全てのお笑い芸人に「だからムダなんかじゃない」と又吉氏や、板倉氏の伝えたい物にも見えました。
見てきた。原作と監督がお笑い芸人ということもあり、最後のお笑いのシーンが心にグッとくるものがあった。菅田将暉の演技力がすごいなあとひたすら感じ入る作品でした pic.twitter.com/KZhca3EH8B
— 甘夏@相当EXCITE→Life is beautiful (@amanatsu0312) 2018年1月1日
決してめちゃくちゃハッピー★なエンディングではないですし、地続きの日々に「何故私はこのタイミングでメンタルがしんどくなる映画を見てしまったのだろう」と思わなくもないのですが(笑)、それも込で、原作との違いやドラマとの差異、一本の映画としてどうだったのかを考え、噛み締め、映画館を出たときに自分の一歩を大事にしよう……なんて、そんなことを感じられた作品でした。