柑橘パッショナート

インプットとアウトプットを繰り返すごちゃまぜスタイル

”「Mogut」~ハリネズミホテルへようこそ~”から感じること考えること

なんだかんだ今年の初現場となりました。

塚田僚一さん主演舞台「「Mogut」~ハリネズミホテルへようこそ」です。場所は声優現場で何度か足を運んだことのあるステラボールでした。

何なら真横の映画館はハイロー見に行くために何度も通ったし近々でいえばゼロワン映画も見に行ったな……なんていう個人的事情を抱えつつ。

見に行って結構たつのですが自分の中でどう噛み砕いたらいいのか分からずしばらく置いていたのですが、まとめておきたいと思います。

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モグー”ハリネズミホテルにようこそ”

 

※ネタバレしています。

※批判的な部分もはいっていますのでご注意ください。

 

 

 

概要

イギリス・ロンドンから離れた場所に構えるハリネズミ専用ホテル。

以前はミチュランガイド5つ星に輝いたものの現在は二つ星に下がっているこのホテルに、一匹のモグラがやってきました。

彼の名前はモグー。このホテルに泊まってみたいとずっと持っていたモグーですが、「ハリネズミ専用ホテル」のホテルに泊まれるわけもなく門前払い。

「でも絶対!絶対!このホテルで、あの料理を食べてやるぞ!!」

そんな決意を持ったモグーが、起こすドタバタ大騒ぎ。

 

……が、本編となっております。一応あらすじから上記は私がまとめてみた感じです。


キャストは主演に塚田僚一氏。

そして細見大輔氏、菅原りこ氏、田村雄一氏、辰巳琢郎氏による5人舞台になっております。菅原りこさんは先の一件以降お名前お見かけしていたのですがヴィジュアルがたいへん好みでしたので見られるこのご縁が嬉しく存じます。

また、原作は鈴木舞氏による絵本。鈴木舞さんは戸塚さんが演じられたヴァン恋の方ですね。

 

こちらが原作。Kindleでもありました。
なお、上演台本・演出には「日本文学の旅」や「ディファイルド」でおなじみの鈴木勝秀氏。音楽では「日本文学の旅」にて此方も携わっていらっしゃった大嶋吾郎さんとなっております。 

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舞台の感想

プログラムにも記載されていましたが、基本的に絵本がベースになっています。

だから何が起きても「絵本が根底にあるし、だからこその明確さなのかもしれない」という気持ちで見ていました。

はじめに、モグラの性質、ハリネズミの性質に活弁士が横でナレーションしてくれながら状況を説明してくれます。モグラのモグーはどのような人物なのか、またどういう考えなのか。

カツベン!

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これはそんな活弁士をテーマにあげた映画「カツベン!」。

活弁士というと塚田僚一さんでいえばA.B.C-Zの同じメンバーである河合郁人さん主演舞台「トリッパー遊園地」でも登場人物が出てきましたね。

 

▽トリッパー遊園地感想 

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実際ハリネズミモグラの違いというのはほとんど「見かけ」だけで、習性等も似ているらしく、そうなのかぁと驚きました。ネズミの仲間ではないことは知っていましたがモグラの仲間だとは。

 モグラのモグーからすれば「ほとんど変わらないのに、どうして自分はだめなのか」となりますが、ハリネズミホテルの支配人としては「ハリネズミだけ」のためのものであるからこそだといいます。

差別と区別、というのは昨今も話題になりますが非常に難しい問題です。本人が「どうか」と思ったら差別である部分もあるし、一方で相手側からすれば「これ以上問題が起きないための忌避すべきこと」で、区別というものにしていったようにも感じられます。

また、本作は「厨房」というものもキーワードになっており、モグーはこのホテルのレストランにおけるスペシャリテ”ミートパイ”が食べたかったことが後になってわかってきます。

 

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ポークパイ

【素材元:goodbye pork pie hat | mingus ah um | Orion Montoya | Flickr

イギリスが舞台であることからシェパーズパイのことを言っているのかと思ったのですが手のひら型のものだったのでいわゆるマクドナルドで売ってるホットアップルパイとかぐらいの感覚かな……?と調べてみた所ホットスナックで「ポークパイ」として売っているらしいです。

モグーは自身も料理人であることが経過で分かるのですが、彼の腕を知った上で修行させてくれた師に対しての感情と、ホテルそのものに対しての感情が違うのが「らしさ」でもあるように感じます。

「変わってしまった」ホテルを嘆くとともに「このホテルに行きたい理由」が師であるからということもあるのですがーー……最終的に多くのハリネズミを巻き込んで、王族を巻き込んでいるところは「侮辱罪というレベルじゃない」という意味でも危険性を感じたのですが、そこは絵本ならではの部分が強かったかな。

「どこかで何となく思いついた、仰々しい名前」を使ってハリネズミとして偽りホテルに潜入するという行動を振り返ると”仰々しい名前”はさておくとしても自分が思いつく名前というのはどうしても「ゴロ」とか、「響き」とか、絶対何かしらリズムが一定であるものだといいます(何なら”覚えていなくても何となく聞いたことがあるもの”とか)

そういう意味で”ラ・モグー”はもう名前からお察しの通り「モグラ」だからこその「まぁ……そうだよね……」みたいなかんじも生まれていきます。

物語としてはハリネズミ”の”ホテルに固執している支配人の心をモグーが入ってきたことで解きほぐしていく内容ですが、外側からどんどんとモグーが周りを仲間にして、認めさせていくくだりが描かれていきました。アドリブ+コミカルな動きが多く見られる中で時折ふとした時にぴりりとスパイスのように真面目なシーンがあるのが特徴だったように感じます。

 

コメディの中で見せたいこと

珍道中のドッタンバッタンの中で気になったのは、随所に「中の人」(俳優)を取り入れている部分。

場面切り替えのダンスでZa ABC~5stars~やチートタイムのサビ部分をモグーや、師匠たちが踊っている部分がいくつかあり、「ああ、この踊り見たことがあるな」と思わせるというか。

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これは塚田さんだけじゃなくて菅原りこさんも同じように当時の踊りをしているのかな……?と首をちょっとかしげているんですが、そこらへんアイドル時期を知らないので何とも。

こういうのって、所謂「俳優を切り離して、俳優を通して作品を見たい」ととるのか、はたまた「俳優の持っている味を出した」と取るのかは人の好みによるとは思います。

個人的に外部舞台として今作は見ているので、モグー(=塚田さん)がZa ABC~5stars~とか、チートタイムを踊ることは「お客さんはA.B.C-Zのファンありき」という目線になってしまうんじゃないかなぁ……となりました。

多分これがABC座であれば何も思わないのだろうけれど、”外部”と呼ばれる*1舞台だからかな、なんていうように感じます。

もちろん、この小さな場面展開の中で普段「この人達」しか踊らないものを他の俳優さんがやってくれることは新鮮であることは間違いないから難しいところではあるのですけれども。

 

アドリブがおそらく随所に挟まれていて、そのアドリブは間違いなく面白かったし「ふふっ」と笑わせてもらいました。うっかり飛ばしちゃったところに対してのツッコミなどは「和気あいあい」感があったりと全体的に和やかな印象もあります。

それを良い/悪いで区分することはとても難しくて、それこそアドリブをめちゃくちゃ入れまくるのであれば福田雄一氏がやっていたデストラップ*2もしかりですし。難しいなぁと思いながら見ていました。

 

コンセプトとして言いたかったことは、「いがみ合うけれど、お互いはきっとそんなに差がないということ」というWe are the world的な部分だと思います。

We Are the World

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育ってきた環境が違う、人が違う、見かけが違う、でも同じものである。

昨今差別的な一面はさまざまな形で問題提起されているので、本作もその中の1として自分は受け取っています。

 

「モグーは後半になるとほとんど己から言葉を発していない」という状況を指摘されているブログサイトさんを見て「ああ確かになあ」とうなずきました。

モグーは天真爛漫.一生懸命さで己の武者修行でたくさんのレストランで学びを得て、最終的に五つ星ホテルのスタッフにまでなれました。腕は確かである一方で「ハリネズミホテルで働く」ことについてのくだりは彼の「こうしたい」という願望は基本蚊帳の外であったように思います。ハリネズミ同士による意見の中で伺っている流れについては男女差にも通ずることも有るし人種差に関しても取り上げられることがあります。

 

差別/区別という「意識」

ただ、支配人の発想である「区別」について、全くわからないわけでもないんですよね。支配人は「多くの動物たちが来てしまうとこのいさかいが起きてしまう。だから、分けた。ハリネズミにとっての良い形にしたい」というものです。はたから見れば「選民思想」的な要素もはらんでいて危ういかんじもするのですが、一方で全くわからないわけではない気持ちもあります。

 

というのも、自分は飲食業に務めたことが有る身としてどうしても苦手な作品として「レミーのおいしいレストラン」という作品があります。

レミーのおいしいレストラン (字幕版)

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 作品展開としては「美食家で己のスキルを磨いたネズミが人間界で料理を作る」というものです。モグーと同じなのは「ネズミ/モグラというだけで人からNGを出されてしまう」ことですが……。

私は前述した通り飲食業界に身を置いていた経験があることもあって、どうしても衛生面的な意味でも、雑菌などのことも含めても「ネズミが食材を持つ」ということで見た後に何とも言えない気持ちになりました。

例えばこれがモグーの世界観と同じように「人間」ではなく「いろんな動物が生きている中」だったら気にしなかったし素直に見れたと思うのですが「人」というリアルな部分が踏まえて進められていたからなのか、「悪い作品ではないけれど、not for meではある」という結論に至りました。

多分自分が飲食に携わっていなければきっと見方は違ったと思うし、作品としてレミーが本当に料理が好きなことも間違いないからこそ、頑張っていく姿はチャーミングで楽しいところもあったし、実際ディズニーシーでレミー銅像があったときに「サイズ感すごいなあかわいいなあ」と思ったりするぐらいには思い入れもあります。

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ディズニーシーで何年か前に撮ったもの

じゃあ私が持っているこれは「ネズミに対する差別」なのか。それとも「ネズミを厨房に入れてはいけない、という区別」なのかと考えると凄く悩みます。

これは衛生面的に見た「区別」なのか、それとも同じ生きとし生けるものであるのだから「差別」なのかと言われたらウウン……となるというか……。レミーの頑張りは間違っていないしストーリーとしても最終的に認められるっていうのも分かるんですが、やっぱり「人間に認められて大人気リストランテになりました」よりも「ネズミだけではなくたくさんの動物達が集うようになりました」であってほしいというか。

モグラであるモグーが厨房に入るなんてナンセンスだ、という主張をしている支配人の言葉を聞いていたときに、私がレミーに対して思う気持ちと何が違うのだろうか……と悩みました。これは人間の身勝手な選民思想なのでは?とか。その境界線の難しさを今一度考えていました。

線引というのは非常に曖昧で、曖昧だからこそ無自覚のうちに「そう」なってしまうのではないだろうか。だからこその「どうなのだろう」という今一度考えられる機会になりえたのではないか、と結論づけています。

I have a dream.

本編が幕を下ろした後、1人で塚田さん(モグー)がピンスポットでキング牧師の有名な演説を行っていました。学生の頃教科書でやった内容だったのと、第一声の「私には夢がある」という言葉にびっくりしたというか。

この冒頭演説に関してはマイケル・ジャクソンのヒストリーにも使われている部分があるのですが、”人種差別”という今作の(モグラハリネズミのではありますが)部分にも通じていて本作が「人種差別」という深く刻まれている人類の悩みを表しているようにも思えました。

History

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しかし、この最後のキング牧師の演説、すごく突然だったので正直驚いたというか。モグーという作品の世界観から解き放たれている部分だったからなのかもしれませんが此処だけちょっと別次元であったように感じます。

モグーに関しては前情報なしで見たこともあって「この作品のこの最後について、全部言いたいことを詰め込んだ」のだとしたら、せっかくならこの下りを絵本が原作とはいえ取り入れても良かったんじゃないかな……とは思います。ここだけ切り取った理由が分からなかったので「どうしてだろう」とずっと考えているのですが答えは見いだせず。

夢がある。繰り返すように言った言葉は「モグー」としての言葉かはたまた第三者の言葉か。あのシーンには「モグー」しかいないからこそ出た言葉だとしたら。彼はあの「ハリネズミホテル(なお誰でも受け入れます)」という中にいながら孤独感を感じ続けながら考えていくのだろうか。そんなふうにも思いました。

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「言ってやりたいことはきっとたくさんあるだろう」と思う中で、そうではないことを言葉にしていたことを踏まえるとラストのモグーもまたこういった気持ちなのだろうか。いろんなことを「考える」きっかけになりました。

学生の頃に感じたこと、今感じていることはきっと人生を重ねている中で異なる部分もあって、だからこそのこの気持を大事にしていけたらいい。

ちょうど「同じようで違いはない」という意味ではOsloでも重要な郭となるシーンがあったからこそ、重ねて改めてでは「差別」と「区別」の違いは?とか諸々ぐるぐるしています。

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俳優陣・スタッフに関して

単独で見る塚田さんのお芝居は「サクラパパオー」ぶりです。

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こちらは中屋敷さんの演出でしたね。縁が紐付いていくのを見ながらニコニコした覚えがあります。

今作のモグーは塚田さんのパブリックイメージに近いキャラクターであったように感じます。元気で溌剌で天真爛漫。まさに世間が求める「塚田僚一」というキャラクター像に近いですよね。その分の温度差でキング牧師の演説のシーンを見てモグーは天真爛漫でありながら同時に言葉を噤むという行為を無意識に強いられてきている部分もあったのかなぁとか思いました。まぁこのへんは自分の妄想なので何ともいえないのですが。

歌ったり、踊ったり、アクロバットをしたりと「塚ちゃんが出来ること」をいっぱい詰め込んだモグーがソーシャルディスタンスを活用しながら色んな人たちとの大騒ぎをしているのはコミカルで、絵本のアニメーションに感じる賑やかさにどこか似ていたように感じます。

 

菅原りこちゃんは一人二役。こちらも「アイドル」ぽいイメージのあるかわいい従業員と、りこちゃんの声の高さをうまく活用したでっぷりとした師匠。~なのだ、という言い方をしているキャラというと天才バカボンのパパが鉄板ですが、何となく大きな丸ブチメガネということも含めて「いそういそう」というキャラクターをはきはきしていました。

 

滑舌が良かったのと、キャラクターとしての可愛さが相まってストンと入ってきた方なイメージ。Za ABC~5stars~ちょっと踊っているのは「女の子が踊るとこういうふうに見えるのか」という面白さもありました。

個人的にはせっかくなのでプログラムにあったバチバチにメイクしていらっしゃるキービジュアルみたいなキャラクターもいつか見てみたいですね。

すごく似合っていてかっこよかっただけに、本編で動くのを見られないの少し残念でした。

 また、現在のハリネズミホテルのシェフである細見大輔さんは「不動博士…不動博士だ……」とどちらかというとそちらのイメージが強くて遊戯王5D'sが好きな自分としては=に結びつかなかったのですが、非常に聞き取りやすく、かついい具合にスネ夫なキャラクターをしていたと思います。

 

第57話 心の闇 残された最後の希望

(右にいるのは不動博士の息子)

この作品には全体的にボケ倒ししかいないので、良い意味でスパイスになる人材だなぁと思いました。切れのあるツッコミがあることって重要だなと。

 

また、辰巳琢郎さんのお芝居もコミカルでした。嫌味な役をわかりやすく、シンプルに提供してくださっているので、子供が「あいつ嫌い」と言いやすいような立ち位置だったと思います。大きな動きがあるからこそのみやすさがある俳優さんの印象でした。

 チューチュー言う下りはまさに子供が真似をしたくなる感じだな、と。

 

また、田村雄一さんに関してはラ・モグー2世という重厚感を出さなくてはならないキャラクターの中で、じっとりと、かつ他のキャラクターと明確に「違う」立ち位置だったように感じます。活弁士としてのシーンと、ぐっとしゃべる下りの二面性というか。

過去に田村さんのお芝居(レ・ミゼラブル)を拝見したことがあったのですが記憶から抜け落ちていたこともあって、今回改めて意識してすごく見ることができたように感じます。声がひときわ通って「すとん」と来る、その上でじんわり広がるお声であったように感じます。

 

演出の鈴木さんに関してはご自身がサッカーがお好きなことはTwitterなどを見ていたので知っていたのですがセリフの中にあったのでちょっとびっくりしました(笑)自分はJリーグが好きなので海外リーグはあまりなのですが、イギリスという舞台だからこその取り入れなのかなというように感じます。

他の舞台というと「日本文学の旅」しか見たことがないので何ともいえませんが、演出の方針でこういうかんじなのかな、こういうのが好きなのかなというのを思う部分がいくつかありました。

鈴木さんの演出はディファイルドのように、がっつりシリアスなもののほうが自分はどちらかというと好みそうな気がするので(見に行けていないのでわからないのですが)いろんな方が再びディファイルドをやるというニュースをお見かけして興味が湧いています。*3そういえば此方も大嶋吾郎さんが音楽を担当されるのですね。

 

なにはともあれ、コロナ禍の中ででもこのようにしてお芝居を続けてもらえること、上演してくれることに感謝するばかりです。少しずつ、一歩ずつでもいろんな作品がまた見られますように。

あらためて作品に携わってくださった皆さんに感謝を込めて。

 

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