柑橘パッショナート

インプットとアウトプットを繰り返すごちゃまぜスタイル

「すべての四月のために」を見てきた/「それでも明日はやってくる」と伝えたい

森田剛さん主演の「すべての四月のために」を観劇してきました。

今のところの私の2017年のいわゆる「現場」はこれが最後。のはず。芸能面においては多分(サッカー的な意味とかジャンフェスとか声優イベントとかになると変わってくるのでそのへん除外する)。

まぁ新曲発売からの観覧とかあったら応募したいなとは思っているのでそのへんも含めて正座待機しつつ、今年最後の「現場」を楽しむべくしっかりと見てきました。

あっ全然関係ないですが紅白歌合戦の出場者に三浦大知くんが発表されましたね。レコ大もEXCITE出てきたので変神パッド片手に楽しみたいと思います。\宝生永夢ゥ!!/

 

すべての四月のために、ですが、なんか勝手に新国立劇場だと思いこんでたら東京芸術劇場で間違えるかと思って電車で顔面蒼白になったのは内緒。

 

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すべての四月のために

 

東京芸術劇場は橋本良亮くんのデストラップぶりです。あんまり久しぶり感がないのは何故なのだろう。ということで、以下ひたすらネタバレです。

すべては四月のために

www.parco-play.com

パルコステージなんですね。

パルコステージの良いところはキャストのコメントとかを流してくれる所。勿論事務所柄森田さんはNGなわけですが、今作における四姉妹の皆さんの意気込みみたいなものを視聴できるのでぜひ行く前にさらっと見ておくといいかもしれません。

 

あらすじ

1944年春、日本植民地下の朝鮮半島近くの離れ小島。海のそばにある小さな理髪店には、たえず波音が聞こえてくる。

戦況が悪化する中、英順(麻実れい)と夫の洪吉(山本亨)が営む理髪店では、次女・秋子(臼田あさ美)のささやかな結婚式が催されていた。

ところが秋子の喜びは薄かった。新郎・萬石(森田剛)が、長女・冬子(西田尚美)に対する思いを捨てきれずにいるからだった。

酒が配られ、歌を歌い、ようやく場が盛り上がりはじめてきた中、日本軍人の篠田(近藤公園)が、理髪店を日本軍専用とするとの辞令を持ってやってくる...

(公式サイトより引用)

今作は朝鮮半島の架空の島を舞台にしているとはいったものの、時代背景にはその物々しい重たい空気が漂っています。プログラムに書かれている島についての設定を見ているとなんとも言えぬ心地にもなりますが……そういう意味でも「設定」としてプログラムは事前確保しておいたほうがいいかもしれませんね。

また、今作における「冬子」「秋子」で誤解されそうですが彼女たちは日本人ではありません。創氏改名と同じくで合わせているのだろうなという印象です。

 

今作の演出・出演者

作・演出/鄭義信

出演/森田剛

臼田あさ美 西田尚美 村川絵梨 伊藤沙莉

小柳友 稲葉友 津村知与支 牧野莉佳 斉藤マッチュ 浦川祥哉

近藤公園 中村靖日 山本亨 / 麻実れい

 

感想

開演前、キャストさんやスタッフさんで思ったこと

スタッフリストを見て過去の代表作を見たら衣装スタッフさんなども含めてNARUTOの方が多くてびっくりした。つい最近戸塚祥太さんのお芝居でNARUTO関係の方が演出に携わるようだったのでタイムリーだなあと。

また、今作の作・演出となる鄭義信氏といえば2014年に褒章をもらっているお方ですよね。舞台を中心に映画も手がけられているお方と聞いています。普段どんな作品を手がけられているのかあまり知識がなかったのですが、98年に「愛を乞うひと」(原田美枝子主演)の脚本を手がけられているそうです。2017年1月にドラマになっていますが、それとはまた違うようで…。

 

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そういう意味でも関心が強い演出家さんのお一人だな、ということで情報を仕入れながら色々見聞きしていたのですが、今回始めて拝見させてもらいました。

 

また、プログラムの紙がとてもいい紙を使用されていてとてもテンションがあがりました。すべすべ!めっちゃ良いやつ!

インタビューや今作では「架空の場所」である島についての解説/時代背景などから行定勲氏と森田剛氏による対談や女性陣・男性陣それぞれのトーク等しっかりてんこもり。これで1500円は安い。

 

今作の出演陣に対して楽しみにしていたのは稲葉友さんです。というのも、仮面ライダードライブで一躍有名になった彼のことを、私も安定の仮面ライダーからのうっかり見かけたら嬉しい俳優さんのお一人になってるゆるファンなわけです。竹内涼真くんといい内田理央ちゃんといい蕨野友也さんといい馬場ふみかちゃんといい上遠野太洸君といい皆凄い。松島庄汰さんに関しては中国を中心にアジアで人気な俳優さんだもんなあ。ブレンちゃんすごいよなあ。

ただ、「お芝居」「舞台」という形でステージに立つ稲葉くんを見るのは何分「仮面ライダードライブファイナルステージ」が最後なわけで。それから約3年、MARSやひぐらしのなく頃に等いろいろな作品に出た上でこうして出演されることとてもうれしく思います。

 

 

「剛(役名)と剛(役者名)が並ぶ」と一部の特撮も好きなV6が好きな人たちと頭を抱えていました。何にしたって、どうしたって、体当たりでぶつかる稲葉くんがどんなお芝居をされるのか、立ち位置を調べたら「日本人兵で、秋子の浮気相手」っていうことだからもうなんかそわそわしていましたよね!(笑)

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しかもこんなインタビューがきちゃったらそわそわせずにはいられない。

 

 

他のキャストさんについては「朝ドラ俳優さんいっぱいでてる…!」でした。

臼田あさ美さんについては世にも奇妙な物語の「美女缶」の人ということで衝撃でした。あの話の内容未だにしっかり覚えていますし本当にブラックというか、あああメリーバッドエンド…と頭を抱え続けてはや幾星霜。

 

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 こっちは映画版。ドラマ版に出演されています。妻夫木聡君が主役ですね。言われて気づく「あーー!あの人かー!!」でした。

 

西田尚美さんについては「マッサン」でマッサンのねーちゃんということに後になって気づきました。キチッとした、キビキビとしたような方の印象。後松岡茉優ちゃんの主演ドラマ「水族館ガール」の一子さんも良かったな。やっぱりなんかしっかりした、姉御ー!みたいなかんじのが似合う印象です。V6という意味ではハードラックヒーローや、追憶、図書館戦争で折口さんやったりと何かしらご縁がある御方だと思います。

 

また、四女の春子役を演じられた伊藤沙莉さんは「ひよっこ」の米屋のパン好き米子さんだったことを知り一人で衝撃でした。あなたか!あなたでしたか!みたいな。

今年の舞台は何かとひよっこに出ている方のお芝居が見られてよかったなあ。高ちゃんもよかったなあ。しみじみ。

ということであんまり言い出すとキリがないので話を戻します。

 

舞台の感想

まぁ一言で言うと「それでも明日はやってくる*1」だなと思いました。安直で、かつ、普遍的な、人が願うことの一つなのでしょうけれど。

時代背景的に戦争の暗い影があり、その戦争の被害者ともいえる人たちの話でもあるわけですけれど。彼らが日本兵を恨む気持ちもわかるし、そりゃあいきなり現れていきなり占領されて「ここからお前らは俺らの支配下だよ!」って言われても「はあ?何いってんの」ってなるよなっていう話ですし。

その状況下で起きる寺内貫太郎一家のような空気感。いつまでも明るくしようと思う一方で、どこかその「明るくしよう」が痛々しく突き刺さるかんじです。

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言葉の一つひとつに彼らが「生きている証拠」の模索をしているように感じました。

冬子と萬石のピュアさが目立つ分、秋子の立ち位置がしんどくて秋子の視点からすれば「じゃあ何故自分は口説かれたんだろう」ってもやもやが残るわけで。

姉が萬石を突き放さない部分もあり、萬石は明らかに冬子を好きでいて、そんな萬石に自分は焦がれていて、やるせないし憧れていた結婚、憧れていた人との生活なのに求めているものは「こうじゃない」という空気感。時代がそうさせている部分もありながらも一方で「結婚するってそういう箇所は絶対あるんだろうな」っても思います。だって好きな人と結婚したからといって思い描いてきた未来を切り開けるわけでもないですしね。

全員を見たときに思ったのは誰もが闇を抱えていて、それを見せないようにして、でも家族だから「甘え」なのか何なのか出てしまう部分があるんですよね。まぁそれが「人らしさ」と言ってしまえばそれっきりなんですけれど。

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萬石は常に日記を持ち歩き、今日はどうだった、何があったかを書き留めています。

時代背景としてどうだったのか、とかまではわかりませんが、それでも作中では「珍しい」という視線で送られていたわけです。

 

彼らはあくまでも「親日派」として島の中では扱われていて、けれど彼らの腹の中はそうではない部分もあって。國としては嫌いだけれど人としては親しさを覚える。そういうこともあったと思います。

冬子と萬石には、彼女の動かない足の原因であることからお互いに対する【負い目】があって、けれど冬子は自分と同じく片足がない篠田との出会いと接し合うことでの【共有、共感】が出来たのだと思います。状況で考えたら後者は修羅の道であることに変わらないわけだけれど、それでも一緒に歩いていこうとしている空気感は、前者との「ぴゅあ」とは違うけれどもとても純粋な「この人と一緒に歩きたい」という誠実さの塊みたいなものが感じられました。

秋子と高田の関係もまた、潔癖症のけらいがある「こうでなくては」というピリピリした秋子らしさが出ています。教師であるがゆえに、きっちりとしたタイプであるがゆえの秋子が自分たちを下に見ている、そして生徒たちを犠牲にする大嫌いな「日本人」である高田の弱さを見て、母性本能もあったと思います。

いわゆる秋子に対して思うのは萬石に対しても冬子に対してもきつい態度しか出来ないヤマアラシのジレンマ状態になっているわけですが。彼女に対して思ったのは現状に対してどうやったっていつまでもどこまでも満足できず、全部をぶちまけたいのに全部をぶちまけたら自分の自己嫌悪との戦いになって葛藤するわけで「なんで黙って聞いてるのよ!」ってなってしまう、いわゆる惣流・アスカ・ラングレー*2状態なのかなって思いました。新劇場版じゃなくて、アニメ版の。

だから、そういう意味でも自分と同じ弱さがあって、でも頼る相手もいなくて、「臆病者の非国民」と罵られても人を殺せないであろう高田の弱さに触れ合って、寄り添い合うのかなと思いました。それは決して彼女の周りにある「家族」ではなく「他人」だけれど。冬子と同じ「シンクロ」みたいなものなのかなと思いました。

 

皆が皆、御大・水木しげる氏のようにはなれないわけで。腕を失っても、どこかひょうひょうと息抜き(勿論その人生は決して楽ではなかったけれど)人の心を打つ漫画を描き、日本の妖怪文化についてこの人無くしては語れないぐらいのお人なわけですが。彼の現地民との交流の話とか聞いてるとすごいな、といつも思います。

 

水木しげるのラバウル戦記 (ちくま文庫)

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総員玉砕せよ! (講談社文庫)

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水木しげる先生の凄いところは事実を淡々と描くところだと思います。

今作における「高田」という人の視点で思うと、ちっていくまでのことが心痛い。もうなんか痛い……。しんどい…。最後の最後に、自分の國の占領箇所である島にいる「秋子」に会えて良かったといって彼は去っていくわけですが…それもまたしんどい。家族のために志願した、けれど、けれど。みたいな。100%善人ではなくて、顔を覗かせるのは「家族のため」「自分のため」で、でもそこに「他人のことを考える優しさ」を持っているがゆえの苦悩が見えるのがしんどい。

 

この作品は「誰」を主体に見るかで物事が変わると思います。

冬子と篠田のラブロマンスなのか。それともとある家族が離れていくまでの物語なのか。

秋子と高田という人の悲劇か。

春子という人の、己の意思を貫く物語か。

夏子が成功するための物語なのか。

それらの物語を理解者の父親と厳格な母親が紡いでいき、萬石がまたつなぐのか…。

見てた印象としては群像劇で、また同時に家族のもので、向田邦子的な部分があるなと思いました。寺内貫太郎一家であり、阿修羅のごとく*3。 

阿修羅のごとく (文春文庫)

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また、同時に鄭さんも語っていましたがチェーホフ感がありました。

チェーホフというと「ワーニャ伯父さん」をこの前見てきたばっかりなのですが…。 

amanatsu0312.hateblo.jp

 なんていうかチェーホフの物語って「今自分たちは苦しいけれど次の人へのバトンを渡す」物語なんだなと思います。

しんどい。もうなんか終わり方も含めてしんどい。ワーニャ伯父さんしかも最初は死ぬ予定だったとか超しんどい。ソーニャの恋は実らないしワーニャ伯父さんもぼろぼろだし自分たちは結局細々とやっていくしかないし「耐えるのよ」とかそれなんて戦国無双に於ける徳川家康*4??っていうね。

でも「全てやり終えてそして死ぬ時、神様は見ていて、自分たちが「ああやっと休める」「可哀想な人生だった」と憐れんでもらえるの」といっているソーニャの強さと儚さとしんどさたるや。

今作は「三姉妹」の台詞言い回しからインスパイアしているものもあるということですが三姉妹は三姉妹で真面目に皆キャラが濃いですよね。私は桜の園が好きです。

 

三人姉妹 (1950年) (岩波文庫)
 

 

 

国と国、人と人。いろんなものが渦巻く作品で、その言葉一つひとつへの重みがあるなと思いました。

好きとか嫌いの舞台ではないので、みながら言いようのない気持ちになりました。

好きなシーンは春子たちの「春は梅もも桜で一杯~」の言い回しが何度も出てくる所。最初から中盤、そして彼女のラストまで。言い回しは同じなのに表現の仕方で印象が全然異なりました。

また、篠田の足を洗う冬子と、萬石の髪の毛を切る冬子での印象の違いみたいなものを感じます。同じ人でも接する人間が違えば印象は全然異なる。

夏子の歌の巧さに「ぱねえ」と思いつつ、彼女の元旦那の人の言い回し司会業の巧みさにも舌を巻く、彼らの二人で一つ、二人三脚感がとても好きでした。

重苦しい時代が横たわる話では有りましたが、彼らはできるだけ明るく生きようとしていて、それでも明日は良い日だと思う、という話で。

「戦争が彼らを散り散りにさせた」という部分は嘘じゃなくて、それまで近かった人たち、穏やかな島民からも「いられなくさせられた」部分があって。彼らは離れていき二度とこの場所に降り立つことはなかったかもしれない。

「互いに手を取り合う、理解し合う」ことは多分相互の主張が違うから難しい。けれど「いつか理解しあえたら」という希望を捨てないというのも悪いことではないと思います。楽観的といえばそれっきりですけれどね。

誰が被害者で誰が加害者だ犠牲者ばかりが増えていく、なんてRoman*5でも言っていますけれどね。そういうもんなんだろうなあ。誰に心を重ねてみるか、また、どういう風に考えるか、どのタイミングで見るか、でもまた感じ方が違いそう。「親はね、子供にいつまでたっても幸せになってほしいんだよ」みたいな台詞が何かであったのを思い出しました。

 

舞台としてはコミカルさが非常にあり、笑いをとりにくる部分も多く感じられました。

鄭さんが元々「三度は笑わせにいきたい」という主張をされていたというのを見て、なるほどなあと思ったり。

うまいことをつらつら語れませんが、取り敢えずざっくりと私の感想録でした。以上!

*1:鈴木結女さんの名曲。忍空の主題歌の一つ。 

それでも明日はやってくる

それでも明日はやってくる

 

 

*2:新世紀エヴァンゲリオン

*3:ドラマにもなっている向田邦子が手がけたとある家族の物語。それぞれが問題や闇を抱えながら、四姉妹の父親に愛人とその子供がいることが判明し、四人は集まって母親を気遣いながら対処について話し合う物語です。

*4:「耐えるのだ…」ってマジでゲーム中何回もいっている。中田譲治さんの声で。もうやりながら「しんどいよう…この家康公しんどいよう…」ってなる。でもどっちかに偏りやすいゲームという作品で東軍も西軍もそれぞれの視点でちゃんと悪役じゃなくて持っているからコエテク好き…

*5:SoundHorizon「見えざる腕」より

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